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尋問用に捕縛した者達から、ハナヤ一族の生き残りが根城にしている場所を吐かせ、リョウレイにその真偽を確認させた後ライヴィズは自ら指揮をとる為に城門前に向かっていた。

カツ、カツ、カツと足早に、ティーチとニアスを従え回廊を進んでいたライヴィズは不意に息を詰まらせると胸元を軽く押さえた。

「――っ、これは…」

どくりと脈打った鼓動に、ライヴィズの纏う空気に変化が生じる。普段から最小限に押さえている魔力が、じわりと身体の中から滲み出て周囲の空気に混じる。

「ライヴィズ様?どうされました?」

「妃殿下の御身にまた何か…!?」

共に居た部下もライヴィズの変化を敏感に感じ取ったのか表情を険しくさせた。

「駄目だ…カケル」

部下の声には答えず、ライヴィズは遠くを見つめて厳しい眼差しで呟く。

「それ以上魔力を使っては…」

ティーチとニアスは呟かれた言葉に顔を見合わせると困惑した様子でライヴィズに話し掛けた。

「妃殿下は魔力が使えないのでは?」

その疑問にライヴィズは秀麗な眉を寄せ、今度は難しい顔をして答えた。

「使えぬのではなく、使い方を知らぬだけだ。己の内に宿る魔力の引き出し方を知らぬのだ」

「では何故…」

「守護の術を掛けた指輪だ。俺様の魔力を練り込んで作った指輪が何らかの作用を起こし、カケルの手助けをしている」

ただし、複雑な術を使って作った指輪では無いのでカケルの魔力に耐えきれず壊れる恐れがある。

「カケルから伝わってくる恐ろしく冷たい魔力の波動…このままでは」

「しかし、魔力が使えるのならば自力で切り抜けることも可能なので…」

「それはない」

明るい兆しかと喜びを見せたティーチの言葉をライヴィズは重苦しい声音で切って捨てる。

「魔力の扱い方を知らぬという事は魔力の制御も出来ぬのと一緒だ。このまま魔力を使い続ければいずれカケルは己の魔力に呑み込まれる」

今はまだ守護の指輪が抑え込んではいるが。それが何時まで持つか。

「一刻も早くカケルの元へ行かねば、生き残りの襲撃なぞより大変な事になるぞ」

カケルの持つ魔力の保有量と強さは確認した訳ではないが俺様の次か、…いや、はっきり言うと未知数だ。










ゾクゾクと火照った身体に、頬を掠める冷えた空気が心地好い。
なるべく足音を立てずに、けれども堂々と洞窟の中を歩く。

男達の来た道を進んでいくうちに俺は自然と敵の持つ魔力を感知して…ひっそりと笑った。

「こっちか…」

近付く度ハッキリしてくる魔の気配と人数に乾いた唇を舐める。鮮やかさを増した紫電の瞳を細め、熱の隠った吐息を溢した。

「いち、にぃ、さん…しぃ、四人か」

そして掌の中央に浮かべた魔力を秘めた赤い球体を無造作に宙へ投げる。すると球状だった赤い力の塊は分散して滑らかに翼を生やし始める。球体から五羽の小鳥へと姿を転じた力を、俺は指先に一羽残して敵のいる方向へ飛ばした。

「あぁ…良い声だな」

小鳥の飛んだ先から次々に悲鳴が上がる。指先に止めていた小鳥に口付け、希薄になっていく魔力と俺の元に戻ってきた力に酔いしれた。

その後ゆっくりと魔力の失せた場に足を運べば地面に四人の魔族が転がる。先程と同じように仮死状態になっているのか反応はない。

「くっ…くくく…」

それが可笑しくて笑う。

さらりと背に流れる銀髪を揺らし、俺は洞窟の中を次なる敵を求めて歩みを進めた。
その途中で、一番最初に放った赤い狼が合流し、俺に術をかけた者が永遠の夢へと旅立ったのを知る。

「良い子だなお前は」

側へと擦り寄ってきた狼に身を屈め、口付けを与えて力を内に取り込む。狼は赤い淡い光を残して、空気に溶けるようにして姿を消した。その際小さな欠片が指輪から零れたが俺は気付かなかった。

「あぁ…来たか」

その時になって漸く異変に気付いたのか、雑魚共より少し強い程度の魔力の持ち主が三つ程俺に近付いてくる。

「なっ…!」

「これは…」

「貴様、どうやってあの牢から!」

俺の目の前に現れた三人組の魔族は青に黄、赤と何かを彷彿とさせる髪色をしていた。

だが、そんなことはどうでもいい。

すぐさま臨戦態勢に入った三人に俺は無駄だと思いながら言葉を投げる。

「奴はどこだ」

深い蒼色の髪に凍てついた蒼銀の瞳を持つ男。
その身に狂気を宿し、王の命を狙う重罪人。

その存在を思い出すだけで身の内から抑えきれぬ力が溢れてくる。じわじわと空気に染み出した威圧的な魔力に三人が身を竦ませた。

だが俺は構うことなく研ぎ澄ました赤い刃を用意しながら淡々と言葉を紡ぐ。

「答えろ」

「くっ…誰が教えるものか!」

「ハナヤ様は我々の悲願を叶えてくださ…ぁぐっ!」

「黙れ。言わぬなら用はない」

欲しい答え以外のことを囀ずる黄色の男に向けて赤い刃を放つ。真っ直ぐに心臓へと飛んだ刃は痛みをもたらしながら男の胸へとずぶりと沈んでいった。

「ぁ…あぁ…っ…」

二人の男の間で黄色い頭の男はがくりと膝から崩れ、俯せに地面に倒れ込む。
突然の展開に息を呑んだ赤い髪の男とは逆に青い髪の男は激昂し、俺に向かって魔力で練り上げた氷の刃を撃ち込んできた。

「貴様っ!」

しかし、俺はその刃の数々を正面に持ち上げた片手掌で制す。ピタリと空中で制止した敵の刃にほんの少し俺の魔力を上乗せしてコントロールを奪うと刃を反転させた。

「…返すぞ」

言うと同時に返した刃に青髪の男は防壁を展開させる。しかし、俺を相手に防壁など意味を成すはずもない。

「がはっ…ぁぐ…ぅっ!」

氷の刃は易々と防壁を貫き、青髪の男を洞窟の岩壁へと縫い付けた。
一連の無情な行為に残された赤い髪の男が声を震わせながら言う。

「やっ、やはりお前はあの男の妃だな…」

「なに?」

聞き逃せない台詞を耳にして赤髪の男を鋭い眼差しで見据える。びくりと一瞬怯えた表情を見せながらも男は言った。

「あの男と同じ眼だ。俺達一族を、ハナヤ様一族を葬った時と同じ…、同族殺しを愉しんでいる眼だ…っ!」

「………」

「許さねぇ、殺してやる!」

身に圧しかかる恐怖を思い起こした憎しみで一時的に退け赤髪の男は俺に向かってくる。
相討ちを覚悟したその気迫に冷笑を溢し俺は指先に止まっていた小鳥を男に向けて羽ばたかせた。



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